加齢とともに、「昨日の夕食を思い出せない」「買い物で必要なものを忘れた」といった「もの忘れ」を経験することが増えます。これは、加齢による自然な現象であり、日常生活に大きな支障を及ぼすことはありません。
一方、「認知症」は脳の疾患が原因で、記憶障害だけでなく、判断力や言語能力、計画遂行能力などが著しく低下し、日常生活に支障をきたす状態を指します。
もの忘れは日常生活に支障がない範囲であれば問題視する必要はありませんが、頻度や範囲が広がり、日常生活に影響を与える場合は認知症の可能性があります。その違いを理解することが早期発見や対策の第一歩となります。
最も一般的な認知症で、全体の60~70%を占めます。初期症状として記憶障害が現れ、「新しい出来事を覚えられない」「同じ話を繰り返す」といった特徴があります。進行すると、時間や場所がわからなくなる「見当識障害」や、計画的な行動ができなくなる「実行機能障害」も見られます。
この認知症は、症状が日によって変動することが特徴で、幻視(実際には存在しないものが見える)やパーキンソン病に似た手足の震え、筋肉の硬直が現れることがあります。調子の良い日と悪い日があるため、家族や周囲が気づきにくい場合もあります。
記憶障害よりも、性格の変化や行動の突発的な行動が目立ちます。例えば、突発的な怒りや感情の抑制が効かなくなる、社会的ルールを無視する行動が見られるようになります。行動や性格の変化が顕著な場合、このタイプの認知症が疑われます。
脳梗塞や脳出血などの血管障害が原因で発症する認知症です。認知機能が段階的に低下することが多く、突然症状が悪化する場合もあります。また、発症部位によって症状が異なるため、注意深い診断が必要です。
バランスの取れた食事は認知症予防に役立ちます。野菜や果物、魚、ナッツ類などを多く取り入れた「地中海式食事」が推奨されています。塩分や糖分を控え、適量の水分を摂ることも重要です。また、食事中によく噛むことで脳を刺激し、活性化させる効果も期待できます。
ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、血流を促進し、脳を活性化させます。エレベーターを使わず階段を利用する、一駅分歩くなど、日常生活に運動を取り入れる工夫をすると継続しやすくなります。
人とのコミュニケーションは脳を刺激し、認知症予防に効果的です。家族や友人と積極的に会話をしたり、地域活動や趣味のサークルに参加することで、社会とのつながりを保つことが重要です。
読書やパズル、将棋、楽器の演奏など、脳を使う活動は認知機能を維持するのに役立ちます。また、日常生活で新しいことに挑戦する習慣を持つと、脳の活性化がさらに促されます。
良質な睡眠は、脳の修復と情報の整理を助けます。睡眠時間を確保するだけでなく、寝る前にスマートフォンやテレビを控える、リラックスする習慣を取り入れることで、より質の高い睡眠が得られます。
視力や聴力が低下すると、外界からの刺激が減少し、認知機能が低下しやすくなります。定期的に視力や聴力を検査し、必要に応じて眼鏡や補聴器を利用しましょう。
認知症の早期発見は、進行を遅らせるうえで非常に重要です。特にアルツハイマー型認知症は、軽度認知障害(MCI)の段階で診断されれば、適切な治療により症状の進行を遅らせることが可能です。また、レビー小体型認知症や血管性認知症の一部は治療が効果を示すことがあり、早期の診断が患者様の生活の質を大きく改善する鍵となります。診断技術の進歩により、MRIや血液検査を活用した早期診断が可能になっています。
「最近、もの忘れが増えた」「日常生活でミスが増えた」と感じたら、まずはご相談ください。早期治療により、認知症の影響を最小限に抑えることが期待できます。